「言葉は心を超えない」それでも伝えようとする経営者がかっこいい。


「それ、何ですか?」

先日、外出先で知り合いの経営者と偶然会い、かばんから少しはみ出していた1冊の冊子に目が止まりました。

「あ、それ…なんですか?」

私のかばんに差し込んであったのは、うちの事務所で毎年作っている「経営計画書」。
経営理念から、戦略、社員の未来像、戦術、数字まで――かなり分厚い1冊です。

その場の流れで「良かったら見てみます?」と軽く渡すと、彼はじっと読み込み、しばらくしてからこう言いました。

「いや、これはすごいわ。ここまでちゃんとやってるなんて、尊敬する」

でも、すぐに続けてこうも言ったのです。

「でもね、すぐに自分の会社でやろうとは思えないんだよ」


「言葉は心を超えない。でも、それでも――」

なぜ?と聞くと、彼の答えはこうでした。

「本音と建前は違うって、社員も思ってるだろうしね。
中途半端に伝えたら誤解されそうで怖い。
社長は遊んでばっかりだって思われてるかもしれないし…。
ちゃんと伝えようとしても、伝わらない気がしてさ」

その瞬間、私の頭の中に、ふと車の中で今朝流れてきたある歌のフレーズがよみがえりました。


🎵 「言葉は心を超えない。とても伝えたがるけど、心に勝てない」
── CHAGE and ASKA「SAY YES」


思わず、私はその一節を彼に伝えました。

「恋愛の歌かもしれないけどさ、これって、経営にも当てはまると思いませんか?」
「人間って、何かを成し遂げたいときに、言葉を使って伝えようとする。
でも、どんなに言葉を尽くしても、心のすべては伝わらない。
でもね、それでも“伝えようとする”こと自体が、すごく大事なんじゃないかな」

彼は少し黙って、そしてにやりと笑いました。


「恋愛では百戦錬磨の僕に、その話する?」

「西村さん。恋愛では百戦錬磨の(笑)僕にその話できたら、しっくりきまくりだよ。
意中の女性を落とすのと、経営は一緒ってことね!」

そんなふうに笑ってくれた彼の表情は、どこかスッキリしていて、とても清々しいものでした。

「じゃあ、俺も計画書、ちょっと作ってみるわ。
そのときはアドバイスもらえる?」

私は心の中で、静かにガッツポーズを決めました。


伝わらないかもしれない。でも、伝えようとする姿勢が、結局“伝わる”んだ。

経営理念、ビジョン、戦略…。
どんなに良い内容でも、「言っても伝わらない」と思って口をつぐんでしまえば、永遠に伝わることはありません。

でも、「伝えよう」とするその姿勢こそが、社員や仲間に響いていくのだと思います。

言葉は不完全です。
でも、それを使って不器用にでも、誠実に伝えようとする――
それが、経営者の「覚悟」じゃないかと、私は思うのです。


💡 経営計画書は、“正解”を書くものじゃなく、“覚悟”を書くもの。

もし今、「うちでも経営計画書、作ってみようかな」と思ったなら、
まずは“想い”からでいいんです。

きっとそこから、社員との対話や、自分自身の新しい気づきが始まるはずですから。


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