法人税率が下がる時に考えておくこと

岐阜県可児市の税理士、西村賀彦です。

安倍政権の「3本目の矢」として法人税の引き下げが実施される可能性が高くなってきました。1番の目的は、外資系企業の日本への投資を増やすためだと言われていますが、日本で元々ビジネスをされている中小企業の経営者には、どのような影響があるのでしょうか。

次の表は、国税庁が発表している法人税の黒字申告の件数の割合です。

年度 H19 H20 H21 H22 H23 H24
% 32.4 29.1 25.5 25.2 25.9 27.4

※例えば、H24年度はH24年4月1日からH25年3月31日までに終了した申告について、平成25年7月までに申告があったものを集計

H20年のリーマンショックにより黒字法人が減少し、H22年度に過去最低を記録したのち、その後の緩やかな景気回復によって少しずつ上昇してきていることがわかります。しかし、ここで率直な疑問が生じます。リーマンショック後は、ほとんどの企業が業績悪化や資金繰り悪化に苦しんだと思われますが、黒字から赤字に転落したのはほんの7%程度(32.4−25.2=7.2)ということになります。イメージとしてはもっと多いという印象です。

この原因の一つとして、役員報酬が考えられます。従来は、給与所得控除も含めた所得税率と法人実効税率(法人税、住民税、事業税を合わせた税率)を比較した結果、法人税の負担ができるだけ少なくなるように、役員報酬の金額を設定し、法人側では利益をあまり計上しないようにするという考え方がありました。このため、リーマンショック後は多くの法人が役員報酬を減額することにより黒字を維持したため、思ったより黒字法人が減少していない結果になったと思われます。

このことは、財務面でも次のような形となってあらわれてきます。

  • 法人税負担が小さくなるように役員報酬を設定するため法人の利益も小さくなり、結果として内部留保が少なく自己資本比率が低くなる
  • 業績が悪化した際は、法人の手持ち資金が少ないため経営者個人資産からの借入金で対応する傾向がある
  • 金融機関も一定の中小企業については、経営者の資金力も法人の資本として考えることがある

つまり、多くの中小企業は、法人の利益が“トントン”になるように役員報酬の金額を設定する傾向があったといえますが、法人税率が下がることが確実となり、その財源として所得税、相続税のさらなる増税も考えられる現在、役員報酬の考え方を見直し、法人に利益を残すということも検討しなければならないと思われます。その際には、以下の観点が必要です。

  • 役員報酬は事前に決めないと、原則損金になりませんので、社会保険や地方税(注1)の負担も考慮した上で、翌期の役員報酬の適正額を決算前に検討する
  • 法人に利益が計上された場合、経営者が保有する法人株式の相続税評価額が上昇することが考えられるため、相続・事業承継への影響を検討する
  • 将来の設備投資や商品開発等の法人で必要な資金は法人の手元資金と借入により調達し、経営者からの借入に依存しない財務体質を目指す(経営者の法人への貸付金は経営者の相続税の対象となります)

(注1)現在、税率引き下げの財源として、外形標準課税(法人事業税)の対象を資本金1億円超の法人から全法人への拡大が検討されています。外形標準課税は給与(役員報酬含む)・支払利子・賃借料等に一定税率を乗じて算出します。

(当事務所発行のCLOVER通信2014年7月号より)

法人税率が下がる時に考えておくこと(その2)はコチラ


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